金沢大学 医薬保健研究域医学系 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学

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診療分野:耳 

診療分野「チーム金沢大学耳鼻咽喉科」


 主として耳鼻咽喉科・頭頸部外科で扱う領域は脳頭蓋・眼および付属器をのぞく顔面頭蓋と脊椎より前方に存在する頸部組織です.講師以上のスタッフは関連病院における部長クラスが必要とされる耳鼻咽喉科全体の診療能力を身につけた上で,耳科学,鼻科学,頭頸部腫瘍学,頭頸部外科学などの専門分野を担当しています.各グループは機能的に連係して,臨床・研究ともに全国的にもトップレベルの金沢大学耳鼻咽喉科チームを形成しています.
 21世紀は感覚器の世紀と言われています。耳鼻咽喉科・頭頸部外科の守備範囲には、「見ること」「触ること」以外のほとんどの感覚器が含まれています。「聞くこと」「味わうこと」「においを嗅ぐこと」といった感覚器の病気を扱い、さらに「話すこと」「食事をすること」「呼吸をすること」という生活や生命維持に直結する部分の病気を取り扱います。つまり感覚器の障害を治し、話し食べて息をするという機能を可能な限り温存して治療をするのが、耳鼻咽喉科・頭頸部外科なのです。
 

耳科学「聴覚・中耳炎・側頭骨外科・顔面神経麻痺」


1,外耳道癌に対する動注併用放射線化学療法


 当科では2006年以降、切除可能と判断したT1およびT2症例に対しては初回治療として手術治療を選択し、進行期聴器扁平上皮癌に対しては放射線併用超選択的動注化学療法をおこなっています。以前放射線併用超選択的動注化学療法を行った進行期聴器扁平上皮癌5例について臨床的検討を行い、その有用性を発信しました。(ANNALS of Otology,Rhinology&Laryngology 2011 耳科学会2010)。その後2014年までにさらに7例、計12名の進行期扁平上皮癌に対して同治療を行いました。最近の4症例においてはシスプラチンの一回投与量を150mgに固定(5回 総量750mg)し治療を行っています。12例中8例で局所制御を得ており、カプランマイヤーでの解析で推定累積生存率が66.7%でした。また750mgに増量することで重大な有害事象を誘発することはなく、これらの内容は続報として発表しました(Clinical Otolaryngology2015、13th Japan-Taiwan Conference on otolaryngology-Head and NeckSurgery, Tokyo、 30th Politzer Society Meeting, Niigata)。進行期聴器扁平上皮癌は骨浸潤を伴うために放射線単独での制御は難しく、また解剖学的な問題から正常組織を含めた一塊摘出が困難でもあります。骨浸潤を伴う扁平上皮癌を、治療強度の高い動注併用放射線化学療法で制御できる可能性があると考えており、今後この治療法の有効性をさらに確立していきたいと思っています。
 

2,特殊例に対する人工内耳埋め込み術


 人工内耳埋め込み術を受ける事で高度感音難聴患者は聴力を再獲得し、QOLを著しく上げることができます。しかし聴力検査上は人工内耳埋め込み術の適応でありながら、特殊例であるために手術の恩恵を授かれない方が少なからず存在します。今後はこのような特殊例に対する人工内耳の症例をすこしでも増やすことが重要な役割であると考えています。我々は好酸球性中耳炎の症例にたいして、Subtotal petrosectomy、 Blind sac closureにて外耳道を閉鎖、耳管を閉鎖、人工内耳の挿入、腹部脂肪による死腔の充填、以上の行程による手術を行っています。そのコンセプトは以下のとおりです。1,Subtotal petrosectomyを行って、好酸球が浸潤する場所を消失させる。2,耳管と外耳道を閉鎖させることで、好酸球浸潤の原因となる異物や刺激の侵入をふせぐ。この手術コンセプトの安全性と有効性をはじめて報告しました(European archives of oto-rhino-laryngology2016, 第25回日本耳科学会)。また、中耳根本術後耳に対しても積極的に人工内耳埋め込み術を行い、我々の術式の安全性と有効性について発信しております(2015年石川県地方部会、第26回頭頸部外科学会総会 名古屋)。
 

3, 真珠腫性中耳炎・慢性中耳炎の治療
  (Retrograde Mastoidectomy on Demand)


 当科では真珠腫性中耳炎に病変の進展範囲に応じて外耳道を拡げるように乳突削開した後(Retrograde mastoidectomy on demand)、側頭筋膜片を用いた軟組織にて鼓膜・外耳道を再建する術式を用いています。骨の削開範囲は、外耳道を拡大し鼓室の開放にとどまるものから外耳道後壁骨を削除するものまで、真珠腫の進展範囲に応じて決定します。私たちはこの術式を成人の中耳真珠腫症例ばかりではなく、小児真珠腫や慢性中耳炎に対する手術においても基本術式としており、再発率や聴力改善において良い成績が得られています。
 真珠腫が鼓室内に限局する場合は、病変の摘出に必要な範囲のみの骨を削り(図1、2)、正常の中耳解剖をできるだけ温存しながら病変を摘出します。これは中耳の換気能といった機能の温存にも有用です。しかし、病変が中耳の深部である乳突洞や乳突蜂巣にまで進展する場合には、外耳道後壁を削った後に病変に応じて乳突開放をおこないます(図3)。鼓室形成術では外耳道後壁骨の処理は一般的には保存型と削除とに分類されますが、当科では外耳道後壁骨削除後に温存した外耳道後壁の皮膚と筋膜片を用いて、鼓膜と同時に外耳道後壁を再建しています。これは手術視野が良好なため、真珠腫の取り残しが少ないといった長所があります。

図1 鼓室内に限局した真珠腫 図2 鼓室内真珠腫摘出後 図3 外耳道後壁骨削除・乳突開放